こんばんは、master-pieceの福井です。
本日は大阪の下町「昭和町」からお届けします。
大阪市阿倍野区に位置するこの町。閑静な住宅地の中に文字通り昭和を感じさせてくれる建物が点在します。レトロと今が違和感なくミックスしていて一言でいうととても住みやすそうな町です。駅から5分ほど歩いたところにある子供たちが楽しそうに遊ぶ声が心地よく響く小さな公園、その向かいに直営店PERKを構えるのが、「ink」です。
master-pieceとは2020年のコラボレーションが記憶に新しい同ブランド。ご存じない方のために改めてinkについてご説明すると、2005年に大阪を拠点にスタートし、以来ミリタリーやワーク、ヴィンテージウェアなどを解体し独自の解釈で再構築したアイテムを展開しており、一線を画したそれらのクオリティーは、ウェアとバッグの違いはあれど同じモノづくりの立場から見てもとても勉強になる事の多いブランドです。
作業中のこちらの方がink創設者であり代表の岡田さん。気のいいお兄さんのような存在で、寡黙な方ですが作られる洋服には岡田さんの思いや感性が色濃く刻まれており、口より手で語るを地で行くような格好いいオトナです。
アイテムのチェックをするのは同じくinkのSALES大谷さん。ink参加前には様々なアパレルブランドを経験されており、岡田さんに負けず劣らずの洋服好きです。余談ですが私とは同世代でさらに地元が同じという事もあり接しやすく、大谷さんとは仕事でない場面で会うことの方が多いかもしれません。
今回そんなお二人がお店にいるタイミングでお邪魔したわけですが、その理由は…。inkとmaster-pieceによるコラボレーションアイテムの第2弾が完成したのです。今回の取り組みですが、前回に劣らず色々とすごい事になっていまして、完成したアイテムを見ながらお二人と話した事を踏まえた上で皆様にお伝えできればと思っています。
まず前回のコラボレーションの話になるのですが、2020年のちょうど今ぐらいの季節、inkにより「再構築したウェア」にmaster-pieceがバッグブランドとして収納の機能を融合させたアイテムを共作しました。脱着が可能であったり、通常のウェアのポケットと比較するとかなりの容量が確保されていたりと、ウェアとバッグの特徴を活かし合ったコラボレーションでした。
対する今回は何を作ったのかといいますと…。前回とは真逆のアプローチ、「ミリタリーバッグの再構築」です。
古くからファッションとして愛されている「ミリタリー」。
個人的にミリタリーアイテムには一入ロマンが詰まっている気がしていて、自分が好きなのは勿論、街中で着用している人がいると思わず目に留まってしまいます。ウェアでいうとトレンチコートやMA-1をはじめ現在のファッションの定番の元となったミリタリーウェアは数知れずですし、バッグではヘルメットバッグやダッフルバッグなど最近は多くは見受けられませんがこれまで多くのブランドがそれらをアップデートしてファッションアイテムとして生み出してきました。
ただ、今回の取り組みは一味違いまして、パターンをアップデートし新たなアイテムとして生み出す方法ではなく、実際にある軍物のバッグを一度解体し、現在の日常生活で必要な機能やデザインを付随させ元の形に復元するという。この言葉だけでもとんでもない労力がかかっていそうでヒヤヒヤせずにはいられません。
master-pieceや自社ファクトリーBASEとしてももちろん初めての試みですが、inkとしてもこれまで洋服の素材としてバッグの生地などを使用したことはあったものの、バッグの形をそのまま活かしながらというモノはなかったそうで、お互いが手探りではありましたが、何より面白いモノができそうという合点から今回のプロジェクトはスタートしました。
まず土台となるバッグを探すところからですが、「日常生活」というキーワードを念頭におきながら様々なバッグを目にしていく中、目に留まったモノがありました。セルビア軍で軍用物資として支給されていたコットン地のリュックサック。普段使いにはちょうどいいサイズ感かつ重量も軽くオリーブなどが主流なミリタリーアイテムでは珍しい鮮やかなブルーが印象的なアイテムです。お互いがピンと来てこのリュックサックをベースにする事が決まり、まずはデザインについての再構築から始まりました。
元となるリュックサックにはフラップ部分に軍のものと思われるワッペンがついているのですが、この部分をinkお家芸のリメイクによりガラッとアレンジしました。今回2パターン展開なのですが、1つはデニムのパッチワーク。様々なデニム素材が幾何学模様のように構成されていて、こちらはまさにinkを象徴するかのようなデザインになっています。もう一方も同じくデニム素材なのですが、赤いファスナーが印象的なこちらは一体元々何だったのかといいますと、ヴィンテージのオーバーオールのちょうど胸当ての部分なのです。 inkのアイテムではデニムがよく使用されるのですが、いつか何かに使えそうという理由で岡田さんが取っておいた部分で、元となるリュックのフラップを見た時にあれが使えると閃いたそうです。
そしてこちらのフラップ、機能に対する再構築が施されています。なんと本体から取り外してサコッシュとして使用する事ができるのです。元々はなかった裏地を設け、そこにポケットを付属させる事で収納としても機能するこちら。パッチワークやオーバーオールの表情が存分に楽しめるアイテムになっています。
次はリュックサック本体について。
一見ブルーのコットン地がそのまま活かされているように見えますが、本体の凄いところが前からは見えない部分なのです。それは背面と内装。前面の表情はそのままに体が接触する背面の生地は全て芯材を含んだポリエステルに切り替えられており、耐久性と背負い心地の向上が実現しています。後ろだけを見るとまるで新品のバッグのようです。
次に内装ですが、ここに今回のプロジェクトの鍵とも言える機能があります。背面部分をまるごと切り替えた事により内部にPCスリーブを搭載する事が実現しました。ミリタリーのバッグは基本的にシンプルな作りのモノが多く、当然ノートPCやタブレットの収納は想定されていません。「日常生活」での使用を想定したからこそ備えられたこちらの機能。これだけでも凄いとなったのですが、そこで終わらないのが今回のコラボレーション。
内装は取り外してエコバッグとして使用できるインナーバッグが装備されています。生地は透湿防水性に優れた軽量ナイロンを使用しており、インナーバッグとはいえしっかりと使用できるバッグです。フロントに縫製されたinkのネームがとてもいい感じにアクセントになってくれています。
「日常のシーンに合わせた変化だけではなく、ファッションとしても楽しめるものにしたかった。」と大谷さんがいうように、先ほど紹介したフラップを取り付けて印象を変えて使用することも可能です。
本体はフラップやインナーバッグを外した状態でもボンサックとして使用できるので、4WAYに変化する超ハイブリッドなリュックサックになっています。生地だけではなく金具やテープに関しても、機能として必要な部分はアップデートしながら元々のモノ活かしたことでミリタリーアイテムが持つ雰囲気も残されています。
出来上がったアイテムを見ながら改めて今回のプロジェクトを振り返った感想を一言でいうと、両者が只々楽しみながら取り組んだコラボレーションだったという印象を受けました。
裏話になりますがこちらのアイテム、元となるバッグの数が限られている事や普段のバッグ作りのノウハウが一切通用しない事などから、生産できる数が極めて少数なアイテムなのです。
実際に販売させていただく店舗も、master-pieceでは堀江店と京都店とオンラインストア、inkの直営店「PERK」、海外の一部セレクトショップといったラインナップです。「骨折り損の、、、」とも言われてしまいかねない本プロジェクトですが、出来上がったモノを実際に見ると真っ先に「いい仕事してますねー」と言ってしまう、そんなアイテムになりました。
お二人にも言ってもらったのですが、再構築を得意とするinkと、自社ファクトリーを持ちフレキシブルな生産が可能なmaster-pieceだからこそ実現したプロジェクトなのではと。恐縮ながら私も同感です。先ほど楽しみながらという表現をしましたが、土台には両者のしっかりとした基盤があるが故だと自負しています。
国内の発売は10月14日(金)より。実物を見ていただける店舗もごく僅かですが、お近くの方はぜひ実際にお越しいただき、ニッチながらも色濃く光ったアイデアと職人技を直接ご覧いただければ幸いです。